MisticBlue小説コーナートランスポーター web版(DL版はこちら→txtzip)

「トランスポーター#2」


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 筋違いの批判だ。
 背筋を伸ばして椅子に座りながら、喉元まで出かかる言葉を飲み込み、ローズ=ホーリックスは唇を噛み締め、気持ちを押し殺した。
 白髪混じりの壮年の男は赤味のかかった黒い軍服を着て、指導役の将校とローズの所属する地区の役員が雁首並べて、職務を断罪するかのように言う。
「何度も言うが、君は皇女を取り逃した。元恋人が乗っていたという車両でだ。これは立派なスパイ行為ではないかね?」
 長方形の真っ白なテーブルに両肘をついて、試すような視線。
 挑発にのってはダメだと言い聞かせ、ローズは冷静に答える。
「いいえ、そのような事実はありません。私は職務を全力でこなしました」
 二人の面接官は軽く微笑む。
「では、なぜ、捕らえられなかったのか。あの列車に乗っていたのは間違いないはずだ」
「いいえ、該当するような人物は乗車していませんでした」
「ファイナリアに逃亡されたという連絡もあった。君は取り逃したんだ。まぁ、相手が一枚上手だったということだ。それはいい。問題なのは相手が君の元恋人だったということだ。これは誰が見ても君が彼と口裏を合わせたのではないかと勘繰ってしまうよ。下衆な発想かもしれんが、組織としてそれだけ重要な人物なのだ、わかるかね?」
 白髪混じりの将校がやわらかな言葉で表現するも、その瞳には優しさはなかった。
「チャンスを与えてはいかがですか、少佐殿」
 横から直属の上司が口を挟む。
「君の部下だ、好きにしたまえ」
「いいえ、同志ですよ。政治将校殿」
「そうだったな」
 二人で軽く笑う。ローズは黙って厳しい表情のまま、黙っていた。
「ローズ君。これでどうかな、君には小旅行に行ってもらう。だがしかし、少佐殿への土産物を確実に届けるという約束だ。それを成し遂げられるなら、我らの革命の戦士として今後、更なる期待をもてる」
「我らの理想のために」
 素早い動作で起立し、敬礼をしつつ、スローガンを口にすることで返事をした。
 少佐と呼ばれた白髪混じりの男はシワの寄った口元をかすかに緩めて、返礼した。
 最後まで背筋を緩めず、上官の合図で退室しようとした時だった。
「そうだ、彼をつけよう」
 少佐と呼ばれた男は言った。何も答えず、振り向く。
「君ひとりでは潜入任務は大変だろう。うってつけの男がいる、連れて行きたまえ。これは私からの真心だよ。君のような若い優秀な女性を我々は大事にしたいのだ」
 もう一度、ローズは敬礼だけして退室した。
「私も監視役つきか……」
 廊下を歩きながらつぶやいた。
 ――お心遣い感謝します……いつもなら、そう、言ってたのにね。
 ブーツの音が寂しく響いた。




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