MisticBlue>小説コーナー>トランスポーター web版(DL版はこちら→txt、zip) 「トランスポーター#2」 1 2 3 4 4 鉄道の貨物駅とは違い旅客専用の駅“ファイナリアシティ・セントラルステーション”は高台の途中にあった。その高台側を登れば旧王宮があり、シンボルの炎を象った紋章をあちらこちらに施し、手すりやドアノブなどは当たり前の様に豪奢で細やかな細工が目を見張る。現在は国会議事堂として使われているおかげで、一市民は入ることができない。 荷降ろしが終わり、荷を積む作業まで時間のあったカートはファイナリアの中心部をメリーに紹介した。旅客用のセントラルステーションから貨物駅は少し離れているのだが、専用通路を通らせてもらい、苦せずに到着だ。 だが、メリーは建物に感心するどころか、ケチをつけはじめた。 「ダメね。建物だけ飾るのなら、お金さえあればなんとでもなるのよ。ここの王様はなにが足りなかったって、そりゃ自然との調和、ナチュラルバランス。センスっていえばわかるかしら? いくら綺麗にレンガ積んだってお花の一本も咲かせられない人間には人の心がわからないわ」 鮮やかな青い髪をかきわけて、当たり前のことを言うように旧ファイナリア宮殿を評価した。 カートは後悔した。 出自をすっかり忘れていた。ただの女の子ではないのだ。 世界の覇権を握っていた帝国皇室で育った生粋のお姫様なのだ。このような田舎国家など比べ物にならないところにいたのだろう。 「すまんな、思い出させて」 カートは意地悪く言ってみた。 「バッカじゃないの、こんな国と一緒にしないで欲しいわ……こんな国と」 言葉尻にかけて、声のトーンが下がっていく。 ファイナリアは政権が変わっても王族は丁重に保護された。だが、帝国はどうか。武力でクーデターを起こし、一人も逃さないと意気込み、女子供であろうと容赦はしない。メリーの従兄妹は乱暴な兵士に殺されてしまった。大貴族に嫁に行った準皇室のまだ若い女性だった。王族を大事にしてきたファイナリア新政府と、支配層を一網打尽にすると考える革命政府と仲が悪いのはそういう理由もあった。 また、ファイナリアの人は優しいというのが一般的な評価だ。 ――本当にそうか。 カートとしてはこの国は観光や仕事の途中によることはあっても、長く住んだことはない。本質的なところはわからない。だが、メリーは、自分で口にした言葉を後悔するように徐々に視線が地に落ちていく。ファイナリアの穏やかな気風を感じていたのかもしれない。 高台側から平地側を下っていけばすぐ街の中心を流れる川にぶつかり、活気ある市場街だ。その風景を見下ろし、合わせて懐中時計を眺めて、カートは街につれだせばよかったかと後悔する。 だが、時計を見て、眉をひそめる。そろそろ荷を積む時間だ。戻らないと。 「市場をぶらぶらしたことあるか? いや、してみたいか?」 えっ? っと不思議な顔をするのはメリーだった。予期しない問いだったのかもしれない。 「私、自慢じゃないけど、お金もってないわ」 世間知らずと言われたくないとはいっても、やはり現実はこういうものだ。 財布だってもっていない。硬貨にどんな模様が描かれているのかだって、よくしらない。 「食堂車のお手伝いさんに給料出さないといけないだろ。とりあえずは現物支給ってところで……ダメか?」 クククっとメリーは笑う。 「私、給料貰うのね。この私が」 「俺の財布で足りる程度にしろよ」 買いたいものがあるのよね、メリーは無邪気にカートの腕をつかんで目を輝かせる。 荷を積み込むための作業がこれからだ、荷役を急がせるかな、とカートは冗談ぽくいえば、平気な顔して「そうしなさい」とメリーは返してきた。 前へ |
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