MisticBlue>小説コーナー>トランスポーター web版(DL版はこちら→txt、zip) 「トランスポーター#3」 1 2 3 4 5 6 4 手を握ることもなく、肩を組むこともなく、ただ二人とも仏頂面で、夕飯時のにぎわう飲食店街を静かに歩いていた。繁華街の明かりが二人を怪しく照らすも、表情は渋い。 「それで?」 カートの言葉はそっけない。 うながされても、ローズは言葉がうまく出てこない。 久しぶりに見る私服姿の二人だが、そのことに感慨はあっても、言葉が出る雰囲気ではなかった。 「俺も困ってるんだ、あんな荷物背負わされて」 ローズはにやりとした。 「珍しいわ。カートが弱音だなんて」 「ただの荷物だったら文句は言わないがな。命が何個あっても足りないものを運んでいるんだ。しかも俺だけではすまされない。戦争が起こっても不思議じゃない。そんな危険物は柄じゃない。俺はただ、世の中が良くなって欲しいと思ってるだけなんだけどな」 「それは、わたしだって……」 カートは睨む。 今のローズはその態度にびくりとせざるを得ない。 「おまえたちのは違うさ。何度も言ってるように、トップの連中は独裁者へのひがみから始まってる、首のすげ替えさ。あいつらは自分たちがトップに立ちたかっただけだ。なにも変わりゃしない。上層部は世の中を変えたいと思っている連中を利用しているだけなんだよ」 唇を尖らせながらも、ローズは反論しなかった。 「おまえの生活はよくなったか?」 「かわらないわ、むしろ、出て行くほうが多い」 恵まれないもののためへの寄付。そういって、日々集金がある。 その行き先は考えたこともなかった。 「まあそれはいい。俺がいいたいのは、今、必要なのは物を循環させることだ。それこそが今の世界を新しくすることだ。東の特産品を西に、山菜を海へ、魚を山村へ、塩と毛皮を交換し、小麦を寒村に届けてやる。必要とするものを必要とする人に運べば、ある程度は豊かになる。導き手が誰であろうと、これを実践させた人物が俺にとっては重要なんだ」 ローズはあきらめに近いため息をつく。 「あなた、やっぱりトランスポーターね」 カートはその点では反論をしない。 「それで、帝国の寵児をどこに運ぶわけ?」 その問いには答えない。 「まさか生涯の伴侶とか言わないわよね?」 笑顔が怖い。 「運んだからって、世の中は変わらないな。周りがどう担いだってな」 「あなたはそう言うけれど、担ぎあげられれば、オオゴトよ! 望む、望まないに限らず、争いは起こる」 「もし、事が起こったら、おまえたちの組織では勝てないよ。まだまだ新しい流れには人々は対応しきれてない。急ぎすぎたんだよ。まあ、それで早めに芽を摘み取ろうってことで、帝国の頭を狙ってつぶしをかけてきた。やり方が汚いよな」 「違うわ。支配するものの末路よ。従属を解放したの」 「勝手な言い分だな。少なくとも、俺は帝国運輸は好きだったぜ。コンテナひとつ運んだ先に楽しみに待っているやつがいると考えるとな。その仕組みをつくった人は尊敬に値する」 「その考え、ずっと変わらないのね」 「ファイナリアの発展を目の当たりにしてれば、誰でもそう思うよ。ここの小麦と木材、鉱物は本当に評判がいい。だから、お返しとして、この土地にないものが続々と入ってくる。それで、相乗効果を生むんだ。俺達はその一端を担ってる。俺達が世界の発展をつくっているんだ」 物をつくる立場の人に敬意を払って、それを必要とする人の笑顔が楽しみ。いつだってそう言っていた。 「なにいっても、変わらないわね」 「俺はこれでいいんだよ、これからも」 そんな言葉に、ふと、さびしそうにカートをみつめる目があった。だが、カートはずんずんと前に進んでいく。追いついていくのに精一杯のほど、早足だった。 待ってという声を上げるのも癪だと彼女は頬をふくらませ、黙ってついていくしかなかった。 唐突に止まった。 気づかなかったローズはカートの背中に顔をぶつける。 「もう、なによ、急に止まって」 カートが真剣な眼差しで先を見据えている。 その視線の先、路地裏の一角。 鮮やかな深い青。黄色いカチューシャで髪をまとめた少女。 何回か、手招きし、ある方向を指差していた。ボリュームのあるショートカットが揺れ、彼女の示した、その方向に消えていく。 あの色は、見間違うことなき、ロイヤルブルー。 見惚れたローズはカートの駆け出しに、またしても遅れた。 前へ / 次へ |